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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第8章 入学式

「ばあちゃんは、今、半分認知症になりかけててさ。だんだん俺らのこともわからなくなってきてるんだ。だから、少しでも分かるうちにいっぱい会っておきたいと思ってて。俺がこっちの大学選んだのも、吹奏楽部が有名だからってのもあるけど、ばあちゃんの入所してる施設に近いからっていうのもあって」

「俺ら二人とも、ばあちゃんの影響でトロンボーン始めたんだ。啓太は、特にばあちゃんから目をかけてもらっていろいろ教えてもらってたよな」

「えーと…おばあさまは…どうして県外の施設に?」

「あぁ、伯母さんがメインでばあちゃんの面倒見てるからだよ。オヤジの姉さんなんだけど、旦那さんの都合で、結婚後はずっとこっちに住んでるからね」

「あ、なるほど…」

『女のところに入り浸ってる』なんて言い方にちょっとぎょっとしたけど、ただ単に施設へ入所中のおばあさまのところへ会いに行ってただけというのはわかった。でも、中村君に彼女がいるのは、事実…なんだよね。

さっき、彼女のことを聞いた時、お兄さんははっきり「いる」って言ってた。まさか、おばあさんのことを冗談で『彼女』と表現したわけではないだろうし…。

「ところでさ、吹奏楽部に入部希望だよね。いちおう紹介しとくと、うちの兄貴がトロンボーンのパートリーダーだよ」
「積極的な勧誘活動はしてないけど、入部自体はいつでも受け付けてますよ?」

中村君の紹介を受けて、お兄さんがにっこりと営業スマイル。



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