テキストサイズ

僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第8章 入学式

「あっ、あのっ、わたし、希望楽器はトランペットなので…。トロンボーンをやるつもりは無くて…」

後ずさりしながら、言葉を濁す。どうしよう。中村君に彼女がいるって知ってしまった以上、同じ部活で毎日のように顔を合わせるのは辛いかもしれない。吹奏楽やりたくて目指した大学だけど、同好会でもブラバンでも、トランペット自体をやれる環境はいろいろあるし、あっ、いっそのこと学オケ(学生オーケストラ)に転向するのもありかも…。

「それに、この大学、入る前は知らなかったんですけど、吹奏楽部以外にもオーケストラとかブラスバンドとかいろいろあるみたいだし、いろいろなところを見てから入部を決めたいかなぁって…」

「えっ、石井さん…吹奏楽部入らないの?」

中村君が意外そうにしている。

「絶対に入るとも、絶対に入らないともまだ…」

曖昧な返答をしながら、一歩また一歩と後ずさる。さっきまであんなに入部する気満々だったのに…中村君に彼女がいるってわかった途端、態度を替えるなんて、私の吹奏楽への思いってそんなもんだったのかなぁ…。

後ずさり、後ずさり…

「うきゃあっ?!」

後ろに目がついてるわけでもないのに、むやみに後ずさりなんてするもんじゃない。私は何かに躓いて後ろ向きにこけるという失態をしでかした挙句、とっさに手をついたものの手首に味わったことのないようなとんでもない激痛を感じた!! 

……これ、もしかして折れたんでは??





ストーリーメニュー

TOPTOPへ