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僕は貴女を「お姉ちゃん」だと思ったことは一度もない。

第9章 怪我の功名?

 中村君が付き添いをしてくれた、というか、あまり土地勘の無い私を道案内してくれたというか、とにかく一緒に病院まで来てもらった。

 受付で名前を書き、財布から保険証をだす。痛めたのが左手だけで良かったと思いながら。ただ、字を書いたり、箸を持ったりは出来ても、トランペット演奏はしばらくの間できなさそうだ。

初診ということで、待ち時間の間に具体的な症状について記入してほしいとアンケート用紙のようなものを渡された。

「手、痛いでしょ。口頭で言ってくれたら代筆するよ」

そう言いながら、中村君が受付の看護師さんからアンケート用紙とペンを受け取る。

「ま、とは言っても現場を見てたから、ケガの原因とかはわかるけど。後ろ向きにこけて、とっさに手をついた時に左手を痛めた、でいいよね?」

「うん」

「どのぐらい痛む?一番痛い場所はどのあたり?」

患部を矢印で書き込むための人体図を見ながら聞かれたので

「左手首の、このあたり…」

と、右手で痛い場所をさすりながら示し。

「痛いのは最初は折れたかなって思っちゃったぐらいすごく痛くて、今はこけた直後よりは痛み引いてきた感じ。でもまだジンジンする」

「うんうん…」

真剣な顔でアンケート用紙に私の伝えた内容を書き込んでくれる中村君。なんか、お医者様がカルテ書いてるみたい。書き終えた用紙を受付に提出して、待合室のベンチで呼ばれるのを待つ。わりと混みあっていたせいで間隔をあけずにすぐ隣に中村君が座る。


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