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てのひらの福袋

第10章 【レモンの味】

 休日の午後。

 何やら相談があると言ってうちへやってきた親友の明美。ちょっと元気なさそうだったので、私の部屋でゆっくりと話を聞くことにし、先に部屋へ通し、おやつとアイスティーを準備してから自分も戻る。ドアを開けると、明美が、目をぎゅっと瞑り、口を窄めたり戻したりしながら悶絶している。

「だっ、大丈夫?どしたの?」
「ん~、んん~~」

悶えながら震える手で黄色いものを差し出してくる明美。見るとそれはーー

皮つきのまま、かじりつかれた生のレモン。まさか、食べた?

「あんた、何やってんの?」
「んん~、んん~~」

悶絶しながら部屋を出ていく明美。しばらくして洗面所から水の流れる音。もしかして、口ゆすいでる?

先ほどよりはやや落ち着いた表情で戻ってきた明美に問いただす。

「何コレ。あんたさ、何がしたかったの?」
「ほら、キスはレモンの味っていうからさ、試してみたくなって」

…キスはレモンの味って、あくまでも比喩表現だと思う。ガチで皮つき生レモンを丸齧りしたらダメだと思う。

「美紀はさ、こないだその…彼氏としたんでしょ?初めてのキス。どうだった?レモンの味した?」
「そんな味…しないよ。でも、今ならするかも…」

そう言ってあたしは、明美の顎に指を添える。そのまま唇に唇を重ねる。水でゆすがれて少しスッキリはしているものの、それは確実に存在感を残している…

「した。レモンの味」

レモン丸かじりのせいでさっきまで悶絶していた明美の瞳は、少し潤んでいて、女の私でもそそられるほど、色っぽかった。

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