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そして愛へ

第1章 そして愛へ

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 きょうは、二〇十五年十月十日の土曜日です。
 アパートから荷物を持ってきました。ほとんど本と衣服だけですので、進さんが、レンタカーの軽トラックで運んでくれました。タンスや机や本棚はアパートの備品ですので、進さんが買ってくれました。机は、試し期間のあいだは進さんの机を借りていたのですが、新しく買ってくれました。ベッドと布団は、試しの期間のはじめに、買ってくれていました。
 荷物を部屋に入れまして、進さんが、軽トラックを返してきましたら、
 「かおりさん。引っ越し祝いに、美味しいものを食べにいき  ましょう」
 「やったー」
 「お寿司は好きですか」
 「はい。大好きです」
 「じゃあ行きましょう」
 進さんといっしょに、お寿司屋さんに行きました。進さんが、よく来ているお寿司屋さんみたいです。進さんが、お造りと冷酒を注文しました。わたしに、お酒を飲んでみますかと言いました。このお寿司屋さんのお酒は、美味しいよと言いました。わたしは未成年なのに、お酒をすすめるなんて。でも、進さんはそんな常識みたいなのを、気にしないという生き方をしています。
 「お酒をすこし口に含んで味わってみて、自分にはあわない  なと思ったら、出したらいいよ」
 「はい」
 「美味しいと感じたら、飲めばいいよ」
「そうしてみます」
 進さんの言うように、すこしだけ口に含んでみました。美味しいと思いました。ごくんと飲みますと、ほわーっといい香りがしました。わたし、はじめてお酒を飲みました。
 「ほう。飲めたね。美味しかったの?」
 「はい。とってもいい香りがしました」
 「でも、すこし飲んだら、ときどきいまみたいに口に含んで、  それを飲みたいのかどうか、試しながらね」
 お寿司を食べながらのほうがいいから、好きなものを注文してねと言いました。 わたし、お寿司を食べながら、なんどかお酒を飲みました。あるときから、口に含んだお酒を飲み込みたくないなと思いました。それがわかったのか、進さんがそっとちいさな器を渡してくれまして、これにと言いました。
 進さんは、わたしをほんとに優しく気遣ってくれます。なんだか、進さんに守られているように感じました。

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