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そして愛へ

第1章 そして愛へ

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 わたしが、露天風呂からあがりましたら進さんが入りました。そのあいだに下着を着ました。進さんは露天風呂からあがってきましたら、わたしを優しく抱いてキスをしてくれました。
 「セックスのときじゃないキスは、はじめてですね」
 「キスも、セックスです」
 「恥ずかしい」
 わたし、まっ赤になって進さんに抱きつきました。もっとキスしてくださいというように、進さんを見つめて目をつぶりました。
 朝食のとき、進さんがきょうはどうすると聞いてきましたので、海が見たいと言いました。紀伊半島の先端の太平洋に突き出しているような潮岬の近くの静かな海岸で、波を打ち返す海を見ました。進さんの膝の上に腰をおろして、後から抱いてもらってずっと海を見ていました。
 進さんが、どうして作家になろうと思ったのか。いままで、どんなものを書いてきたのか。これから、どんなものを書きたいと思っているのか。
 わたしは、大学の友達の話。ときどき男子学生が意味ありげなことを言ってきますが、進さんと比べるのも可哀想なくらい魅力がない。勉強は、楽しいと思っている。将来のことは、まだぼんやりとしている。などなど二人ともそれぞれ自分のことをいろいろ話しました。静かに波を打ち返している海を見ているうちに、話したくなったのです。
 進さんが、ときどきそっと頬を寄せてきますので、振り向くような感じでキスをしてもらいます。時計を見ることもなく、穏やかに波を打ち返している海を、ずっと見続けていました。気持ちも、穏やかになる感じです。
 きのう寄った「とれとれ市場」で、遅い昼食にしました。進さんが、新鮮な魚を宅配便で送ってもらう注文をしていました。わたし、きょうもイカの刺身を二人前食べました。それから帰るまで、進さんがわたしをイカノカオリさんと呼ぶんです。
 わたしたちは、車の中でいっぱい話しました。だいたい、わたしが7で進さんが3という割合です。ときどき、十分くらい二人とも黙っているときもあります。気詰まりというのではなく、それぞれの思いを尊重している感じです。

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