―短冊に託したプロポーズ―
第1章 ―短冊に託したプロポーズ―
それで私は、もう一つの願い事を叶えるため――
凍結保存している裕一の精子で、
『人工授精』の治療を受け始めた。
タイミングを見計いながらの治療は、思っていたよりも時間を要した。なのに裕一のは、私の中になかなか留まらず。
二回目の時も、上手くいかなかった。
その間、裕一の病状は良くない方向へと進みだし、焦った私は三度目を受ける前、違う方法(体外受精)も視野に入れて考えだしていた。
だけど、違う方法は必要なくなった。
三度目の正直。ようやく、私と裕一の天使が、お腹の中に舞い降りた。
この上ない喜びで、エコー写真と母子手帳を手にすると、すぐに裕一に報告をしに会いに行った。
私と同じぐらいのテンションで喜んでくれるはずの裕一は、もう……ベッドの上で、大人しく息をしているだけだった。
いつかはこういう日が来ると、覚悟はしていた。……ハズなのに、いざ『いつか』が『もうすぐ』になると、目を反らしたくなる。信じたくない。けど、現実を突きつけるように、頭の中で、裕一と過ごした時間全部が鮮明に映し出され、勝手にぐるぐると回りだしてしまう。
それでも、悲しみは見せたくない。裕一に喜んでもらいたい。その想いで涙を堪え、裕一の手を取り、お腹に当てて、優しく語りかけるように報告をした。
(裕一……。この中にね、今……裕一と私の天使がいるんだよ。
直接会うためには、これからも体調に気をつけて過ごしていかないといけないけど……私、絶対にこの子と会うから。絶対に一人にならないから。
出来れば、裕一にも直接会ってもらいたいけど……充分がんばったもんね。私が一人になると思って、ずーっとがんばってくれてたんだよね。
だからね……もう安心してもいいんだよ。
本当に、本当にありがとう……。
どこに行っても、ずっと好きだよ……)
気のせいかもしれないけど……一瞬だけ、裕一が穏やかな笑みを浮かべた。
そのすぐあと、本当に安心しきったのか、息づかいが次第にスローテンポとなっていって。
やがて、深い眠りにつくように、
裕一は――静かに息を引き取った。
握り続けている手から、次第に体温がなくなっていくと……
ついに、涙の腺が壊れた。