―短冊に託したプロポーズ―
第1章 ―短冊に託したプロポーズ―
「はぁっ、はぁっ……。理沙……」
まだ気持ち悪い……苦しい……。でも、これ以上は何も出てこなそうだ。俺は諦めて、洗面器を元の場所に置いた。
その代わりに、ベッドのすぐ横にあるテレビ台の引き出しに手を伸ばし、正方形の小箱を取り出した。
このグレーのリングケース。久しぶりに手にしたな。
両手で持ち、パカッと開けると……小さなハート型のダイヤモンドが付いた指輪が、定位置にきちんと収まっている。
――理沙へ贈るための、エンゲージリングだった。
キラキラと放つ目映い輝きは、初めて目にした時と変わらない。
慣れないジュエリー店で緊張しながら、でも、理沙との明るい未来を想像しながら購入していた、あの日の自分が……今では、遥か遠くに感じて、切ない。
本当だったら今頃は――理沙にコレを差し出して、プロポーズをしていたはずだった。
理沙が泣いて喜ぶような言葉を伝えて、
抱きしめて、エンゲージリングをはめてあげて……
やがて、一緒の名字にするはずだった。
けど、俺は……理沙と未来を誓い合うことがもう出来ない。出来るわけがない。
一年後……。下手したら、数ヶ月後……。
俺は、いなくなるのだから……。
理沙を悲しませるぐらいなら、一層のこと……冷酷に突き放して、思いっきり嫌われて、別れた方が……
「ん?」
病気よりも辛い決断の手前で目についたのは、理沙が座っていた丸イスの上にある、細長い紙。
おもむろに取ってみると、
「……短冊?」
あぁ……そうか。明日は七夕だ。病院にも笹が飾ってあるよな。
理沙のヤツ、何か書いたのか?
裏返すと、そこには――