狂愛の巣窟
第2章 【主人の会社の方と…】
「さっきの怪我、大丈夫でした?」
ほら、待てずに話し掛けてくる。
合流した時からきっとこうなるだろうなと思っていた。
彼の名は伊藤悠介、38歳で享さんの一年後輩。
とても可愛がられている為に時々家でも彼の話題は出るほど。
「大丈夫です、かすり傷ですよ、享さんったら大袈裟で」
皆からは少し離れているので会話は聞こえたりしないだろうけど男女2人だと誤解を招く事もあるので同じベンチでも距離を取る。
これどうぞ、と珈琲を手渡されました。
淹れたてでわざわざ作ってくれたみたいです。
ありがとうございますとカップを持ち萌え袖で飲んでみます。
適度な距離感、醸し出せているでしょうか。
余裕のある笑みを見せながら隣で珈琲を一緒に飲んでいる。
こんな事をしていると誰かがすっ飛んで来そう。
「あっ!目を離した隙きにコラ伊藤!」
「あ、佐倉部長〜!奥様に珈琲淹れておきました」
そんな血相変えて来なくても。
享さんは今でも物凄い嫉妬深いの。
こうして自分以外の男の人と居るだけでヤキモチ妬いちゃうような人。
結婚しても十和子を手に入れた気がしないってよく言ってる。
「気を遣ってお話してくれてたのよ、会社での享さんがどんな感じなのか聞こうと思ってたのに」
「え、あ、そうなの?いや、良いよそんな話!まぁ、ありがとうな、伊藤」
「アハハ!奥様の前じゃ部長の威厳まるで無しですね?良いとこ見ちゃいました、では邪魔者は退散しまーす」
「え……あ、カップ」
「後で俺が返しとくから」
無理やり引き離して「寒くなかったか?」なんて私を気にしてる。
バカね、そういうところ好きだけど目移りなんてしてないわよ。
夕方には解散となり挨拶を済ませた後で荷物を車に乗せている間。
ポケットに入れていた携帯が鳴る。
(明日、10時、○○にて)
確認した後にすぐ消去するのは癖付いている。
バカね、マウントなんて取らなくて良いのよ。
あなたにはあなたにしか与えない愛があるでしょ。