魔法の玉
第2章 花火で盛り上がるグループの中にいる、先輩と後輩
「だけど驚きましたよー。
この花火打ち上げてるの――池辺(いけべ)先輩の、昔からのご友人だなんて!
しかも、親方なんですよね。何代目なんですか?」
「アイツの父親の代からだから、二代目だよ。
アイツの父親は、始めは別のとこに弟子入りして、一人前になったのちに独立をしたんだ。んで、その父親が亡くなったあと、アイツが引き継いで、今に至る……というわけだ」
「へぇー。そのご友人は、やっぱり幼い頃から後を継ぐと言っていたんですか?」
「いや。アイツ実は、幼稚園の頃の夢は、野球選手でな。当時メジャーリーガーだった間茂(まも)投手の投げる玉を場外へ打ち上げてやるっていう、無謀な野望を抱いていたんだぞ」
「あははっ、ホントですか!」
「ああ。けどそれが、小学生になってから父親の仕事に触れるようになってな。そのうちに、野球選手から花火師へと夢が変わっていったんだ」
「なるほどー。でも、『玉を打ち上げる』という点は変わってないですね」
「ホントそれ、言えてるな」
二人で和やかに話していたら、どこからか軽やかな曲が聴こえてきた。
「……っと、すみません。ちょっと電話が……」
なんだ。山内のスマホの着メロか。
「ああ、いいよ」
山内は、軽やかに鳴り続けるスマホを手に、この場から離れていった。
俺一人になると、話題に上がったアイツとの思い出が、更に鮮明に蘇る。
(おいっ、スケベ! オレ、野球選手じゃなくて、父ちゃんみたいな花火師になって、魔法の玉を打ち上げて、みんなのカンチョーを引き出すことにしたぞ!)
(……はぁ? お前、何言ってんだぁ? ていうか、おれのことを『イケベ』じゃなくて『スケベ』って呼ぶの、いい加減やめろってば!)
(いいじゃんいいじゃん。ほれスケベ、カンチョー!)
(ぐはっ……! やったなコイツ! 喰らえっ、連打カンチョー!)
(あだだだっ……! テメェ、ケツの穴が増えたらどうすんだよっ!)
……くくくっ。アイツのと思い出は、カンチョーばっかだな。