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止まない雨はない

第2章 プリテンダー

オレがルカの荷物になっているってことか?

壁に力なくもたれ、タカシは俯いて苦笑した。
中途半端にNYに来て、自分はアーティスト気取りだった。
日本でライブ活動を少しだけしていたせいで、ちやほやされ、いい気になっていたことは否定しない。
ところが現実はそれほど甘くなく、自分ほどの腕のジャズピアノプレイヤーはここにはごまんといた。
予想以上に挫折感を味わい、焦燥だけの毎日だった。
挙句の果てには盛り場のいさかいで友を亡くし、自分を救ってくれた恋人に対しても、
厄介のタネになっているのだ。


ルカ…………。

自分の愚かさがつくづく情けなく思えた。理解しあえる運命の絆で、
ルカとは結ばれていると信じていた。
だが、それは違った。
それを密かに知ったことで、泣きたくなるほどたまらなく恥ずかしくなった。
自分が信じていた“確かな絆”は切れそうな絆であり、いつなくなってもおかしくないほどの細い絆で、かろうじてルカが手を離さずに持っていてくれただけの話だった。


今は一刻も早く、その場所を離れたかった。

「オレは……とんだ道化じゃないか?あまりにも馬鹿すぎて笑えない」

彼はルカに顔を合わせることなく、
その場を逃げるようにして足早に去っていった…。

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