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ルカが玄関の施錠が開く音を聞いたのは、日付がとっくに変わった時間だった。


机の上で数冊の文献を広げていると、タカシらしき妙な気配がした。

慌てて玄関へと迎えに出てみる。

「……どうしたんです？遅かったじゃないですか、タカシさん？
今日は、演奏の日ではないはずでしょう？
オレ、病院であなたが来ると思って、終業後に待っていたのに…」

「……………」

タカシは無言のまま、ルカと顔を合わせようともしなかった。
ルカが彼に近づくと、アルコールのきつい匂いが漂った。

「………飲んでいたんですね？それならそうと言ってくれたら…」

「………ねぇ、ルカ？面白いことを教えてあげようか～」

タカシは陽気な声で足元をふらつかせながら部屋へ移動する。

「……たまたま今日行った店にピアノがありました～！
で、ここはオレの出番だなって、バカなタカシ君はピアノを弾き始めたんですがァー…」

思わず転びそうになったタカシの腕をルカは支えるが、それを彼は振り払う。

「この眼の傷を指さして、皆がこう言いました！“You are not Piano Man.
You are like a Mafia!”ははははは…」

「……タカシさん、飲みすぎたんですね？ダメですよ？深酒は精神をネガティブにするだけですから…」

「……オレに同情なんか………やめてくれよ、ルカ」

部屋に入ってくる前からのタカシの様子の異変には気づいたルカだったが、
あまりにも荒れた彼の様子に、何がなんだか訳がわからなかった。

「……オレに同情なんてするなよ、ルカ。お前は、お前の選んだ道が最初からあったはずだ。
オレのために、その道を閉ざす必要がいったいどこにある？」

俯いたまま、タカシは低い声で自分に言い聞かせるかのようにしてルカに言った。

途端にルカの顔色が変る。

「……なぜ……それを？」