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止まない雨はない

第2章 プリテンダー

「バレてないつもりだった……か。オレも惚れた弱みか、随分とナメられたもんだな…。」

「…待ってください、タカシさん。オレ、まだドイツ行きの返事はしてないんです。
返事は日本に帰国してからになるんです。無論、オレはドイツよりもタカシさんと…」

「…ふざけるなよ、ルカ。それがメーワクだって、言いたいんだ!」

「……タカシさん」

「オレのような、中途半端なヤツのために、自分を犠牲にすることはないって言ってるんだ。
オレはアーティスト気取りで、NYを拠点にしてジャズピアノの武者修行を存分にしているつもりだったが…、中途半端な実力で、未だに芽も出ず、酒場でクダを巻いているだけさ。
挙句の果てにはこの傷で、マフィアだと。笑い話にもほどがあるな…」

ルカはそんなタカシを鋭い目で睨み付けた。

「で?なんだっていうんです?顔の傷がどうって??」

ルカは書斎に戻ると、引き出しからレジデント時代にオーベン(指導医)からもらった、記念の大切なメスを持ち出してきた。

「あなたがそんなに弱い人間だったなんて…見損ないましたよ、タカシさん!
顔の傷がなんだって?顔の傷のせいにして、今までの自分も、実績も、
全て中途半端にさせてきたっていうんですか?甘えるのも大概にしろっ!!」

ルカは今まで見たことのない剣幕で怒鳴ると、その大切なメスを取り、
なんの躊躇いもなく、自分の左頬から鼻を通り、右頬へと勢いよく真一文字に切り裂いた。

驚くほどに、顔面から鮮血が噴き出し、ルカの顔を真っ赤に染めた。

「あなたが顔の傷がどうこうってこだわるなら、オレも傷のひとつや二つ、どうってことなどないんです。
あなたを失って、心がズタズタになるよりはよっぽどマシですから!」

それを見た途端、タカシは血相を変える。いったいルカは何をしでかすんだ、と。

「ば…バカっ!医者だろう、お前?いったい何やってるんだ!?」


顔面の傷は、通常よりも出血が酷くなる。そのせいで血みどろになったルカを見て、
タカシはすっかり酔いが冷めた。

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