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止まない雨はない

第3章 遠き地にて君想うとき

躍動感あるリズムのなかに、タカシはいた。
指先が、その感触を覚えている。

どんなに離れていても、忘れることのなかった感触。

鍵盤の冷たい固さ。それに相反した、ルカの柔らかでぬくもりのある肌。

その片翼を失った今、自分は飛ぶことをあきらめようとしていた。

どちらも全力で愛した。愛しているからこそ、あきらめることを選んだ。

叶わぬ恋ほど美しい。

いつかどこかの詩人がそんなことを言っていた。

ルカのまなざしを今も想えば、胸の片隅を簡単に焦がすことができる。


ほろ苦い板チョコを二つに割って、コーヒーカップを片手に、微笑んだルカ。

目の傷のせいにして逃げようとした自分に、その激しい愛でぶつかってきたルカ。

メスを握って、ためらうことなく自らの顔面を傷つけ、
噴き出す血に驚くこともなく、悲しい眼でみつめてきたルカ。


そんないくつものルカの顔を思い出しながら、タカシは激しいリズムを指先で奏で、
作り上げていく。

そしてタカシの演奏を、肘掛け椅子にもたれながら、堺谷は目を閉じて聴いていた。



ルカ………オレは………。


愛しているんだよ、今も…そしてこれからも。


お前に恋をすることで、ピアノを弾いているこの瞬間でさえ、
楽しくも、悲しくも色を変えられるんだ…。

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