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止まない雨はない

第3章 遠き地にて君想うとき

お前を傷つけたくて、傷つけたんじゃない。

愛しているから……一緒にいられなかった。

……………愛してるよ…。


ルカ。


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「………お前さんはとんだ見込み違いだったようだな…」

堺谷はぽつりと呟いた。

「……お前さんは野心家にはなれそうにない。だが、いいミュージシャンにはなれそうだ…」

「……………」

「音楽は愛によって生まれ、人を生かす。ミュージシャンもしかり。
お前さんは……自分でその大切なものを今、失くしたようだが…戻ってきたら……どうなるかのォ…」

堺谷は立ち上がり、窓辺へと歩いていった。
マンハッタンを見渡すその素晴らしい景色を見たあと、振り返る。

「………タカシ、一緒に日本に来い。ワシがお前さんにひとつ、投資をしよう。
店を一軒くれてやる。
それがお前さんを今後生かすか殺すかは…お前さん次第だがのォ…」


口元だけで堺谷は静かに笑うのだった…。




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数年後、タカシはホテルの人気バーテンダー兼、ピアノマンとして、
東京で名が知られるようになっていた。

そしてその後Bar Lucasのマスターとして、歓楽街の片隅に身を寄せるのだった。

店にあるピアノは、NYに居たときに彼と共に過ごしたルームメイトだ。

「……ルカ、ドイツで…元気にしているか?」

目を閉じて、今でも想うのは自分を全力で愛してくれた、眼科医のこと。

たとえ遠く離れても…この地でお前を想って生きていく…。

「佐屋!鳴海!看板出しといてくれよ…」

まるでルカにそう誓うかのように、タカシはバーの従業員であるバイトの二人に声をかけた。

店に暖かな灯りが灯るように、タカシの心のなかにも、ルカへの愛は灯り続けるのだった…。

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