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止まない雨はない

第3章 遠き地にて君想うとき

思い出すのは必ず、タカシの茶目っ気たっぷりの笑顔だった。

大の大人に茶目っ気という表現はふさわしくないかもしれないが、
タカシは時として、素敵な大人でもあり、子供のようにピュアな人でもあった。

そして…とてもやさしい人だった。

自分を犠牲にしてでも、愛する人を守り通すのがタカシだった。

今なら、それが痛いほどわかる。

空港に最後まで来なかったのではない…と。

きっとあのとき、タカシは何処かで自分を見ていてくれたに違いない。

「……ダメだな、オレって…独りになるとつい、あのひとのことばかり考えてしまう」

出逢った時からそうだった。
不思議な力で引寄せられた。
無防備に、彼のなかへ飛び込んでしまった。


そして…突き放された。


頬杖をつきながら、ルカは窓を眺めた。


所在さえ判れば、手紙だって書けるのに…。
いい大人なのに…何故、こうも泣きたくなるような想いを
しなければならないのだろう?


タカシと別れても今なお、身も心も彼に支配されている自分がいる。

タカシさん…。オレ、バイエルンで毎日、研究と論文の生活です。

ドイツ語はちょっと難しくて…最近になってようやく、会話に慣れました。

あなたと一緒にこちらに来ていたら、ドイツ珍道中で、楽しかったかもしれない。

きっと、フランクフルトをかじりながら、美味しいビールが飲めたと思うのに…。



タカシさん……。



遠い空のむこうで、


必ず会えると信じて、ルカは想いを馳せる。

目を閉じれば、背中を包むように抱きしめてくれる彼がいる。

それが当たり前の毎日だった。


言葉が多くなくても、決して切れない絆で結ばれていたはずだった。


ルカは思う。

タカシは一方的にその絆を切ったつもりだとしても、自分は確かに感じるのだ。

未だに、堅く結ばれた、見えない二人の絆が。

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