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止まない雨はない

第3章 遠き地にて君想うとき

「フラウ・シュトライト!ごちそうさま…」

キッチンに消えた婦人に挨拶をし、ルカはまたアカデミーへと足を運ぶ。

深い雪道をスノーブーツで踏みしめながら、絶えず想うのはタカシのこと…。

「……ダメだな、オレって……。新しい論文のアイデアでも浮かべばいいのかな」

せめて…夢で会いたいと思う。

ルカが持ち歩いている、ノートパソコンの中に、タカシが愛用のピアノをバックに笑った写真が入っていた。

ルカはたまにそれを眺めて、研究に没頭していた。

研究室にたどり着いたとき、ドイツでの彼の秘書が託けと称して、電話メモを差し出した。

「……?誰だろう?サカイヤなんて、聞いたことがない。知り合いにはこんな名前、いないんだけれどな…」

コールバックの託けだった為、とりあえず受話器を取る。

「…誰なんだろう?国番号は“日本”になってる…」

携帯の番号と固定電話の番号がメモされており、固定の方の国際電話の番号は日本だった。大学病院の関係者だろうか?
ルカは指定された電話番号に架けてみた。

「…あの、サカイヤさんって…いらっしゃいますか?」

電話を繋いでもらい、しばらく待つ。

「よぉ、思った通りの声じゃのぉ?突然の電話で驚かせてあいすまんかった…。
ワシは、上杉タカシにちょっと関わった者だが…」

そこまで聞いて、ルカは受話器を握り締めた。

「あなたはタカシさんの…お知り合いですか!?教えて下さい!!彼、今どこにいるんです?
元気なんですか?オレ!どうしても、知りたいんです!お願いします…!!」

タカシの名前が出た途端、受話器の向こうの声に張りを感じた堺谷は、車で移動中であった。

専属の運転手に車を任せ、後部座席でゆったりと背にもたれて受話器に耳を傾ける。

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