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止まない雨はない

第3章 遠き地にて君想うとき

「まぁ、待て。お前さんがアイツの行く先を聞いたところで、身動きなんぞ、取れまい?まだまだドイツに来て間もないのじゃからのぅ?」

「…そんなどうしてそんなことをご存知なんですか…?やはり、あなたはタカシさんの所在にお詳しいのですね!?
オレは知りたいんです!彼に…タカシさんにオレの事情を聞いたんですよね?そうですよね?
あなたがオレとこの場所を知ってるってことが、何よりの証拠だ。違いますか?」

ルカは苛立ちを隠せないまま、堺谷の電話に食い下がる。

堺谷はその「若者」の余りある情熱をしばし抑えるため、
タカシの所在をおおまかに知らせてやることにした。

「……上杉タカシは今、日本にいる。東京の、とある歓楽街の店を、ヤツにくれてやった。
アイツのピアノの腕はどうかは知らん。
ただ、アイツの気概には少々期待させてもらうことにしたからのぅ…」


…………日本。
……タカシ。

ルカはタカシの所在を聞き、涙を流していた。

堺谷の電話は、まさに地獄の池に垂らされた、蜘蛛の糸のようだった。

タカシに繋がる、唯一の手がかりだ。

「……お前さんも、タカシも考えが若いのぅ…。白か黒しか答えを出せんとは、不器用というか、なんだかのぅ…。
そういうわけじゃ。アイツが達者であるということは、お前さんに伝えたから、ワシは切るぞ…」

「ちょ…チョット待って下さい!!
タカシさん…、オレのこと、何か言っていませんでしたか?」

堺谷からまだ何も聞き出せていないことを焦り、さらにルカは食い下がる。

「……大切な“友人”を失ったと、ワシと初めて会ったときに言うとったわ。
だがの…」

「………………?」

「……お前さんがたとえアイツを憎んで見捨てたとしても、アイツのなかではお前さんは永遠の友人だそうだがの…」

電話は……切られてしまった。

そして……ルカはうなだれて泣いていた。

それは悲しいからではない、嬉し泣きだった……。

友人の意味するもの……。

自分たちにしか知りえることの出来ない時間であり、情熱と絆の日々だ。

確信だった。タカシは…自分を今でも愛してくれていた。

自分が彼を想い、こうして苦しい日々を研究に注いでいるように、彼ももがいて、ピアノに携わっていてくれたのだ。


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