
止まない雨はない
第1章 マンハッタン
この人は……自分をこのままずっと責め続けてしまうのではないだろうか?
ルカはこの病室に訪れてしまったことを、
いまさらではあるが後悔していた。
中途半端に患者のプライベートに関わるなんて、
いまどきのレジデント(研修医)でさえやらないことだ。
………何やってんだろう、オレ………。
自分で自分のことを最悪だと思ってしまった。
『……上杉さん、ご友人は決して、あなたを恨んだりすることはないと思います。
あなたの命を救ったことに、安心して逝かれたのだと…』
そんなことをタカシに言う自分をしらじらしく思う。
だが、タカシはルカの言葉に安堵したような小さな笑みを浮かべてくれた。
たとえそれが心の底からの笑いでないと解っていても。
その日を境にルカは自分の診療時間の空きをみては、タカシの病室を訪ねた。
他愛もない話をし、彼の様子を常に気にかけていた。
数日後、左目の包帯も取れ、タカシは退院することになった。
眼科の診察室のドアがノックされ、ルカが振り返ると、
そこにはタカシが立っていた。予想もしなかった突然の訪問だった。
ルカは自分だけが、彼を気にかけすぎていたとすっかり思い込んでいたからだ。
『……今日、退院することになりました。
なんか…いろいろ先生には世話になっちゃって』
『………うん、よかったです。左目の視力もなんとか影響無さそうだし』
……話したいのは、そんなことではなかった。
そんなことじゃないのに。
オレは……どうして、一患者にすぎないあなたが気になるんだろう?
そんな淋しそうな顔で、オレの知らない世界をずっと見渡しているような…。
あなたという人は…いったい…。
ケーシーの上からでも解りそうなくらいに、触れれば、心臓が飛び出しそうなほど高鳴って…。
『……先生、今度、ユキトの葬式、一緒に立ち会ってもらえませんか?』
ふいにタカシがルカに願い出た意外な一言に、彼は驚いた。
『……身内の葬式は先日、入院中に終わってるんですが…オレ、アメージンググレイス、そういう場で聴きたくなくて…』
………オレで、よければ…。
ルカは即答していた。何故だかわからない。
ただ……彼、上杉タカシのためになるのであれば…と、
そういう想いだけだった。
ルカはこの病室に訪れてしまったことを、
いまさらではあるが後悔していた。
中途半端に患者のプライベートに関わるなんて、
いまどきのレジデント(研修医)でさえやらないことだ。
………何やってんだろう、オレ………。
自分で自分のことを最悪だと思ってしまった。
『……上杉さん、ご友人は決して、あなたを恨んだりすることはないと思います。
あなたの命を救ったことに、安心して逝かれたのだと…』
そんなことをタカシに言う自分をしらじらしく思う。
だが、タカシはルカの言葉に安堵したような小さな笑みを浮かべてくれた。
たとえそれが心の底からの笑いでないと解っていても。
その日を境にルカは自分の診療時間の空きをみては、タカシの病室を訪ねた。
他愛もない話をし、彼の様子を常に気にかけていた。
数日後、左目の包帯も取れ、タカシは退院することになった。
眼科の診察室のドアがノックされ、ルカが振り返ると、
そこにはタカシが立っていた。予想もしなかった突然の訪問だった。
ルカは自分だけが、彼を気にかけすぎていたとすっかり思い込んでいたからだ。
『……今日、退院することになりました。
なんか…いろいろ先生には世話になっちゃって』
『………うん、よかったです。左目の視力もなんとか影響無さそうだし』
……話したいのは、そんなことではなかった。
そんなことじゃないのに。
オレは……どうして、一患者にすぎないあなたが気になるんだろう?
そんな淋しそうな顔で、オレの知らない世界をずっと見渡しているような…。
あなたという人は…いったい…。
ケーシーの上からでも解りそうなくらいに、触れれば、心臓が飛び出しそうなほど高鳴って…。
『……先生、今度、ユキトの葬式、一緒に立ち会ってもらえませんか?』
ふいにタカシがルカに願い出た意外な一言に、彼は驚いた。
『……身内の葬式は先日、入院中に終わってるんですが…オレ、アメージンググレイス、そういう場で聴きたくなくて…』
………オレで、よければ…。
ルカは即答していた。何故だかわからない。
ただ……彼、上杉タカシのためになるのであれば…と、
そういう想いだけだった。
