テキストサイズ

止まない雨はない

第1章 マンハッタン

彼が亡くなった日と同じように、タカシがルカとユキトを弔う約束の日は、
雨が降っていた。

正装したタカシとルカが共同墓地の片隅にある、小さな墓石に祈りを捧げた。

『……コイツ、オレにどこか似ていて、孤独だったみたいです。
身内もそんなにこの国にはいなくて。
だからカタチだけでアメージンググレイスとバグパイプで送られるのって…ホントはイヤだったんじゃないか…って』

『…彼とは音楽の知り合いだったんですか?』

『…ええ、まぁ。酒場で知り合って、意気投合して、たまにセッションしたり。
オレ、こっちにピアノの修行に来ていて。
彼も、ウッドベースの音に魅せられて、こっちに居ついていたみたいで』

『……大切な音楽仲間だったんですね』

仲間………。

そのとても簡単な言葉の奥深くに、自分とユキトの関係が濃縮されている。
こっち(アメリカ)に来てから好きな音楽のためとはいえ、
多少自信があった自分のピアノプレイヤーとしての腕も、
本場のジャズピアニストたちに会えばあうほど、挫折感を味わった。
すっかり叩きのめされた気分で酒場にいたとき、声をかけてきてくれたのがユキトだった。


『凹むなよ、タカシ。Rain stops without fail』


あのときのユキトの慰めの言葉が…とても胸に染みてくる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ