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止まない雨はない

第4章 Bar Lucas

「…初めまして。山口瑠歌と申します。わけあって、今、ドイツに住んでいます。
三年前に、タカシさんと知り合って…それで…」


「なーんだ!本当にルカっていうのか!!」


鳴海がそういうと、佐屋は肘で鳴海を突いて小声で彼に囁いた。


「…たぶん、あだ名も兼ねていると思うよ、鳴海?“ルカ”ってカトリックに出てくる、医者のセイントだから…」


…あだ名で呼び合うぐらい、マスターにとって、この人は特別だったんだ…。

(いや、それにしてもそんな雑学を知ってる佐屋って本当にタダモノじゃない)


さっきの動揺ぶりから、佐屋はタカシとルカの関係に何かあったことを感じていた。



「……随分、捜しましたよ、タカシさん。どうしてあの日、空港に来てくれなかったんですか?」


ルカは悲しげな顔をしていた。店内にいた、タカシ以外の人間は、こそこそと気を遣いながら、二人から少し離れた位置で自然と見守る。
ただし、カウンターで酔いつぶれたヤマダは意識があるのだか、無いのだか、よく判らない。

「……ドイツになんて、オレは行けないからさ」

「何故です?あっちで一緒に幸せに暮らせたらいい…お互いにそうするはずだったじゃないですか?」

「ルカ…オレはお前の足を引っ張りたくはなかったんだよ。ドイツの大学病院に客員教授として招かれたお前に、オレが付いて行くことなど、ありえないだろう?」

「…そんなの、ナンセンスです、タカシさん。言ったはずですよ?オレは…あなたが必要だと!
あの日、搭乗時刻ぎりぎりまで、あなたのことを待っていたんです!」

…もしかして?ルカ先生って、マスターの昔の恋人???

ルカのひとことで、皆の耳アンテナの感度が、一瞬で良くなったようだ。

「……おい、鳴海!お客がきたら今日は満員だって、断っておいて!
それと…今日は11時閉店ね、皆さん!
ちょっと、外、出てくるから。
ここじゃパラボラアンテナ並みのお耳がやたら多いからな…」


タカシの嫌味に皆が苦笑いをする。

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