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止まない雨はない

第5章 本命とラーメン

「よぉ、タカシちゃん!」

「やぁ、ども」


今度はキャバクラの裏口でペールバケツの仕分けしていた、バーテンダーの男が声をかけてきたのだった。

「どうよ、景気は?うちもなるべく女の子たちを辞めさせたくないけど、こう不景気だと…」

「同感。でも、よっちゃんトコはいい客に恵まれてるんだろ?」

「まぁね。ほら、前にタカシちゃんが紹介してくれた、建設会社のシャチョーがいい人でさ。ありがとね…」


ホルターネックのベストを着たそのバーテンダーは、愛想よくタカシの肩をポンポンと叩く。

「それよりも聞いたぜー?山口先生と恋仲なんだってなー?オレ、タカシちゃんの趣味、初めて知って驚いたぜー?」

「はははは…」



やれやれ…ここでもばればれか…。

タカシはまた苦笑いをした。


行く先々で声をかけられることは、いつものことだが、どうも最後には自分とルカの仲のことを聞かれたりする。


こりゃ…鳴海の言うとおり、この界隈では公認になったと考えるべきか。

そんなふうに思いながら、タカシはルカの診療所が入った、雑居ビルに辿りついた。

下から上の階を見上げれば、診療所の電気がまだ点いている。
診療時間はとうに一時間は過ぎていた。

ビルの2Fへと続く階段を上り、そっとルカの診療所のドアを開け、タカシは中へと入っていった。

診療室までまっすぐ進むと、パーテーションの向こうに愛する人の気配がある…。

タカシは無言のまま、ドアの壁にもたれ、片手拳でドアをコツコツと叩いた。
すると、やっとルカが気付く。

「……タカシさん」

「お疲れ、ルカ。いい加減、“さん”はやめよーじゃない?いつまで経っても名前だけで呼んでくれないね」

「……それは、なんとなく、クセだから。それより、お店はどうしたんです?
さてはまた、サボってここに来たんじゃ…」

「いやいや、サボってないから。オレ、買い物のついでにルカの顔を見に寄った
だけだよ…」

タカシはそう言いながら、ルカの机の脇に置かれた、ビニール袋に入ったまま、手つかずのコンビニ弁当に視線を動かした。


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