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止まない雨はない

第6章 ウルトラマリン

「なぁ…なぁ…佐屋!オレあのキレーな紫色のアイス、すっげー迷ったんだけど…あれって、美味しいのか?」

二人はディップアイス片手に海岸沿いをのんびりと歩いていた。

「紫芋だっけ?たぶん前に食べたことがあるよ。
思ったよりアッサリしていて美味しかったと思ったけれど」

「へぇ…そうなんだ。また一緒に食べようなっ!なっ?」

「うん」

少しだけ傾いた太陽を見上げ“早く泳ぎてー”と鳴海は言った。

本当にコドモみたいだ…。

無邪気で、いつも明るくて。


数年前までは、こんな日が来るなんて佐屋は想像さえ出来なかった。
両親の突然の死と一人で向き合わなければならなかったため、
常に現実的に生きざるを得なかったのだ。

「ねぇ…鳴海、水着、とってくる?」

「えっ?だって陽射しが強いから夕方から泳ごうって…」

「…ごめん、鳴海。あのウルトラマリンな色の海を見ていたら、僕もすごく泳ぎたくなっちゃったから…」

「へへへ…そうこなくっちゃ!オレ、取ってくる…」

一目散にホテルの入り口へと走って行く鳴海の背を、
佐屋は眩しそうに見つめていた…。



いつも…僕のそばにいてくれて、

ありがとう、鳴海………。




「ひゃっほーっ!!佐屋!!あっちのブイまで競争しようぜ」

「こら…鳴海、あんまりムチャしちゃダメだよ…。プールで溺れたこと、忘れてる?浮き輪だって持ってきてたくせに」

佐屋の小言に、鳴海は少し拗ねて反論する。

「違うって!あの浮き輪は、あれの上に背を預けて、波間で昼寝するつもりで持ってきたんだって…」

「全くのんきだなぁ…鳴海は」

佐屋は苦笑しながら“お先に…”と鳴海のふいをついてバタフライで泳ぎ出した。

「あーっ!佐屋!ずるいっ!待ちやがれっ!」

鳴海もクロールで佐屋に必死に追いつこうと猛スピードで波間を掻きまくる。

海は空の色が映ったウルトラマリン。ブイを目指して泳ぐ二人。
水しぶきが波間でキラキラと光る。

陽射しで透けて輝く、鳴海の髪と、
漆黒でつややかな佐屋の髪。
浮かんでは消え、浮かんでは消え…。

空の上には白く輝く太陽。その影に隠れ、
小さな飛行機が線のような雲を描いている。

「…つかまえたぞ、佐屋!」

「あーあ、つかまっちゃった…」

「すっげー息が上がる…」

「鳴海、必死に食らいついてくるんだもの…」

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