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止まない雨はない

第9章 ふたり

「随分と姿や顔に似合わず、強い男だこと!」

コツコツと皮靴の音をさせながら、ルカが囚われている部屋に、一人の男が入ってきた。
黒髪で長髪。ギラギラとした吊り上った眼をした、青白い顔の男だった。少し中世的な雰囲気があるせいか、女性のような言葉遣いである。

「アタシは“ジャノメ”。この界隈で都市開発にチカラを入れたビジネスをしてるのだけど…」

非人道的な扱いをしておきながら、この男はルカの前で美辞麗句を並べ立てる。

「そのためにはね、あなたの大切な恋人のお店を手に入れる必要があってねぇ…」

「…………タカシさんは、あの場所を手放したりはしません」

腫れ上がった顔を向けたまま、ルカもそう言い放った。

「……ったく、あなたも医者ならもう少しオツムが働くかと思ったのにねぇ…。
馬鹿にはあの土地の利用価値ってものがわからないのね、もったいない…」


ジャノメはそう言うと、ルカの手の甲を思いきり靴のまま踏みにじった。

ルカは苦痛のまま声をあげそうになるが、じっと耐える。

「必死になってタカシを庇ってるつもりでしょうけれど、あの男にそれほどの価値があるのかしらねぇ?」

手先や指をさらに踏みつけたまま、ジャノメは哀れむようにルカを見下ろす。

ルカは傷だらけの顔にその瞳だけは凛とした光を保ちながら、ジャノメを睨みかえした。

「あなたにタカシさんを語る権利などないですよ!」

あなたのような、暴力や金が全てだと思っている亡者に、あの人の素晴らしさなど、1ミリだって解りっこしないでしょうね。

「いきがってるんじゃないわよ…」

ジャノメはルカの言葉に腹を立てると、そのまま彼の顔を蹴りつけた。


そのせいで、彼の切れた口からさらに血しぶきが飛び散った。

ジャノメはそれを見ながら、愉快そうにあざ笑う。

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