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止まない雨はない

第9章 ふたり

ドアを蹴り破り、必死な形相のタカシが見た光景は、
あまりにも惨い仕打ちを受け、床に転がったルカの姿だった。

「ルカっ!」

一瞬、タカシは恐怖で声が詰まる。それでも喉からありったけの声を振り絞り、愛しい彼の名を呼んだ。

「……来ては………ダメです」

痛みで動かすことが困難になった指先を震わせ、ルカはタカシに告げる。

そんな彼に駆け寄ろうとしたタカシの目の前に、ジャノメとその部下が阻む。

「あら?欲しい品物には、対価を支払うのがビジネスってものでしょう?」

「ビジネスだって!?」

タカシは苦々しい顔で睨み返す。

「そいつは知らなかったよ。お釣りはたっぷり返してやらなくちゃ…」


オレに直接用があるンなら、来たらよかったじゃない?

よくも汚ない手で散々ルカに触ってくれたよね!?


殴打された傷のせいか、意識が朦朧としながらも、ルカは床に転がり、タカシから眼が離せずにいた。
このままでは、タカシが危険だ。
NYのダウンタウンで彼がユキトを失ったときの恐怖を、今度は自分が味わうことになってしまうのだろうか。

「や……!やめて……タカシさん……オレは大丈夫です。だから………手荒な真似は………」


無力な今の自分に何が出来る?

だが……

多勢を相手に、タカシは果敢に拳を振るい、足蹴りを食らわせ、荒くれ共をなぎ倒していく。

………タカシさん?

「心配………するな、ルカ!こういう歓楽街の住人になれば、いざこざなんて、しょっちゅう吹っ掛けられる。
そのたびに泣き寝入りなんてしてらンないのよ……」

殴りかかってきた相手の腕を掴み、背中でグニャリと曲げ、相手が悲鳴を上げて逃げる。
ある者は完全にノックアウトされ、ある者は肋骨辺りを押さえて動けずに、そしてまたある者は戦闘放棄をして逃げていく。

そう、ルカの想像をはるかに越えて、タカシはこの都会のサバイバルで確実に強くのし上がってきたのである。

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