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止まない雨はない

第9章 ふたり

「そんなデマ、いったい誰が信じるっての?」

ジャノメは鼻で笑う。

「ワシがデマなんぞ言ってどうする?経済アナリストどもがこぞってそう断言しておるぞ?お前さんとて噂を聞いておらぬわけはなかろう?
ま、ワシはちゃんとお前に忠告してやったからな。
万が一お前が大損をしたとしても、ワシのせいではないのォ」

自信たっぷりにそう言い放った堺谷に対し、ジャノメは思うところがあったのだろう。
急に踵を返し、立ち去ろうとする。

「フン。やめたわ…。鬱陶しいあんたたちと関わって、わざわざ手間隙かけて得る金でもないわね」

その捨てセリフは充分負け惜しみに聞こえなくもなかったが、タカシはようやく騒動がこれで収まることに安堵した。

「……大丈夫だったかのォ、タカシ?」

堺谷はその場でタカシに声をかける。

「はい……。助けて頂いて、有難うございました」

「いいや。ルカを本当に守ったのは、おぬしだからのォ。ルカは大丈夫か?」


ようやくルカを抱き起こしながら、タカシは頷く。

「……気を失っています。オレに関わる度に、このひとは、その身を傷つけてばかりで……」


タカシの長い睫毛に涙の粒が光る。

身を挺して、いつもタカシを守ろうとするルカ。

愛しているのなら、自分はこのひとを自由にしてあげるべきなのだろうか?

タカシはルカを腕に抱きながら、傷だらけのその頬に自分のそれを寄せ、
静かに眼を閉じた……。

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