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止まない雨はない

第10章 RE:

「こ……これってどういうこと?」

ルカの傷がすっかり良くなり、気持ちも落ち着き始めた頃、
タカシはルカに連れられ、とある音楽スタジオにやって来た。
今、まさに完璧な防音設備と1台の高級グランドピアノがタカシの目の前にある。

「…実はオレが勝手にルーカスの3周年のお祝いに、
タカシさんに何かしたくて、大学時代のクラッシック同好会の先輩だった
このスタジオのオーナーに、空いている時間に好きなだけ使わせてもらえるように
頼んだのです」

ルカは照れながら事の成り行きを丁寧に説明した。

「それで…交渉がうまくいったあの日、たまたまここから帰る途中、あのジャノメの連中に拉致されてしまったんです」

「そうだったんだ…オレの為に、またルカを危険な目に遭わせてしまって…」

やはり、ルカが自分のために奔走してくれていた事実を知り、
タカシは胸がいっぱいで何も言えなくなりそうだった。

「…オレはどうも、めんどくさいトラブルに好かれているみたいですね。
きっとタカシさん一人のせいじゃないと思いますよ」

ルカは“参りましたね”と微笑んだ。

「さぁ、そんなことより、思う存分、ピアノを弾いてください!
ルーカスでの演奏はバイトの佐屋君に任せてしまっていますが、
オレは閉店後にあなたが弾くピアノを、ずっとずっと聴いていたいと思うんです」

「うん…わかったよ、ルカ」

タカシはピアノの椅子に座り、重い鍵盤の蓋を開けた。
彼は今、嬉しさでどうにかなりそうであった。何よりも自分のことをいつも見ていてくれるルカに対して、
心を込めて演奏を捧げたい思った。

「聴いてください。では、ルカのために」

タカシは瞼を閉じ、最初に出会った衝撃的なニューヨークでのルカを思い浮かべた。

“上杉さん……!聞こえますか?聞こえたら返事して下さい!!”

半ば意識が遠のきかけていたあの日、必死に呼びかけてくれたあの声の主が
今、ここにいる奇跡。

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