
止まない雨はない
第10章 RE:
やがて、タカシが演奏を終えると、ルカは夢中で拍手をおくった。
それを照れるようにして受け止めたタカシだったが、
ルカの背中の向こうにふいに視線を移す。スタジオの入り口ドアが開いたのだ。
「初めまして、上杉タカシ君」
長身で優しげな表情のその男性を見た瞬間、タカシは呆然とせずにはいられなかった。
その男はかつて世界的に有名になったジャズピアニストの
風間隼人だったのだから。
さすがにルカも彼のことはよく知っていた。今までタカシから
もっとも憧れているアーティストであることを何度も聞かされていたからだ。
「何故……?あなたが、こんなところに?あなたは確か、突然第一線から姿を消し、
噂では流浪のジャズピアニストとなったって…」
タカシもルカもこの突然の訪問者にただ、驚くしかなかった。
「突然君たちの前に現れたりして、すまなかった。話せばいろいろと長くなってしまうのだけれど、僕も昔、いろいろ悩んだ時期があったんだ。
名声を手にしたものの、自分は本当にこの音楽が好きでやってきたのか?と振り返ったりしてね。
そんな悩みや気持ちは、演奏にまでハッキリと出てしまう。
自分が満足いかない演奏を誰かに聴かせるなんて、
僕はそんな仕打ちが耐えられなくなって、全てを捨てるように逃げたんだ。
そして、ある日君みたいに堺谷さんに声をかけられて、
それで今の僕が存在しているんだよ」
「あなたも……堺谷さんと縁があったんですか?」
「ああ。今は本業を少し離れているけど、堺谷さんの為だけのプレイヤーになってる
ようなものだね。ただ、僕は今、彼の秘書をやっているから」
「……そんな。オレは全然……気付かなかった」
タカシはまだ信じられないといった様子で困惑
していた。
「君がアメリカに居たとき、ホテルに堺谷さんに呼び出されて演奏させられたことが
あっただろう?あのとき、実を言うと隣の部屋で僕も君の演奏を聴いていたんだ」
それを照れるようにして受け止めたタカシだったが、
ルカの背中の向こうにふいに視線を移す。スタジオの入り口ドアが開いたのだ。
「初めまして、上杉タカシ君」
長身で優しげな表情のその男性を見た瞬間、タカシは呆然とせずにはいられなかった。
その男はかつて世界的に有名になったジャズピアニストの
風間隼人だったのだから。
さすがにルカも彼のことはよく知っていた。今までタカシから
もっとも憧れているアーティストであることを何度も聞かされていたからだ。
「何故……?あなたが、こんなところに?あなたは確か、突然第一線から姿を消し、
噂では流浪のジャズピアニストとなったって…」
タカシもルカもこの突然の訪問者にただ、驚くしかなかった。
「突然君たちの前に現れたりして、すまなかった。話せばいろいろと長くなってしまうのだけれど、僕も昔、いろいろ悩んだ時期があったんだ。
名声を手にしたものの、自分は本当にこの音楽が好きでやってきたのか?と振り返ったりしてね。
そんな悩みや気持ちは、演奏にまでハッキリと出てしまう。
自分が満足いかない演奏を誰かに聴かせるなんて、
僕はそんな仕打ちが耐えられなくなって、全てを捨てるように逃げたんだ。
そして、ある日君みたいに堺谷さんに声をかけられて、
それで今の僕が存在しているんだよ」
「あなたも……堺谷さんと縁があったんですか?」
「ああ。今は本業を少し離れているけど、堺谷さんの為だけのプレイヤーになってる
ようなものだね。ただ、僕は今、彼の秘書をやっているから」
「……そんな。オレは全然……気付かなかった」
タカシはまだ信じられないといった様子で困惑
していた。
「君がアメリカに居たとき、ホテルに堺谷さんに呼び出されて演奏させられたことが
あっただろう?あのとき、実を言うと隣の部屋で僕も君の演奏を聴いていたんだ」
