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止まない雨はない

第10章 RE:

「そんな……!あのときのオレの演奏……今までのなかで一番の出来で最悪な黒歴史だったんです」

タカシは思わず両手で顔を覆った。それを横で見ていたルカは
苦笑しながらも彼の背中をポンポンと叩いて慰めた。

「まぁ……確かにあのときの君は情緒不安定そのものだったね。
ほら、今、君の横に居てくれる、山口瑠歌君と別れた直後だっただろう?
だからかもしれないけれど、演奏自体はかなり酷いものだった。
けれども、僕はそれはそれで君の演奏がとても心に響いたんだよ?
荒削りだけれど、人の心を打つパワーを持っている…ってね」

意外にも、風間隼人はタカシの演奏に賞賛の言葉をくれた。

「それで、堺谷さんは君の気持ちを試すように新宿に店を持たせただろう?君が夢を諦めずにいられるかどうか、って。
その後も音楽に携わり続けているようだったなら、僕は君の演奏をまた是非聴きたいと思ったんだ。
だから、堺谷さんの秘書としてのネットワークを駆使して、君の恋人がこのスタジオを賃貸契約した話を知って、
さっきまでの君の演奏を聴かせてもらったんだ」

「……そうだったんですね」

ルカは風間の行動力に感心せずにはいられなかった。
逆にこんなに著名なジャズピアニストが、己の恋人の演奏に興味を持ってくれたことが
まるで自分のことのように嬉しくてたまらなかった。

「そこで……僕からの提案なんだが、君はまだ夢を諦めてはいないかい?」

ふいにそう尋ねられ、タカシは一瞬迷ったものの、
横に居たルカの目を見て、大きく確信を持って頷いた。

「はい。オレは一生、音楽とピアノに携わっていくつもりです」

「ならば……僕に付いてまた本格的にピアノを始める気はないかい?」

「えっ………?」


風間の言葉に、タカシもルカも驚きを隠せずにいた。

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