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ジェンダー・ギャップ革命

第5章 良人の娘と寝る女



「ブーケスト、あと少しだったね。密かに応援してたのに」

「そういう夢、見ていない私には、豚に真珠です」


 花嫁の投げたブーケストを受け取った列席者は、次の花嫁になれると言われている。それがえみるの手に落ちた時、ほっとした。

 愛津は失恋したばかりだ。

 恋だの愛だのを語れるほどの経験はないが、少なくとも織葉に感じていたざわつきは、それに等しい感情がもたらしていた。その織葉には想い人がいる。

 花嫁より垢抜けた客は不謹慎だと非難されるが、彼女のような女には、目を瞑るべきだ。
 青みがかった長い髪をまとめているのは黒いバレッタ、ココア色のワンピースは動きに合わせてオーバースカートから渋色の花柄が覗くデザインで、装身具はパールの首飾りだけ。装飾性の低い普段でさえ目を惹く彼女を、色味を抑えた引き算をかけた装いが、却って引き立てている。


「私も結婚願望ないから、愛津ちゃんとはお揃いだ」


 愛津のウエストに、感じたことのないしなやかな重みがまとわりついた。

 それが織葉の腕だと理解するまで、時間を要した。


「貴女みたいに可愛い子、持ち帰りたくはなるけど」

「…………」


 勘違いさせないでくれ、と愛津は声にならない叫びを上げた。

 「清愛の輪」の理念に抵触するという理由から、織葉もどこかの誰かに想いを告げない意図を匂わせていた。従って今しがたの彼女の言葉も本心だろう。

 だが、仮に彼女が、えれんより例の誰かを選んだら?

 腹の底で、愛津は彼女が今の優先順位を変えないよう祈っている。自分本位な願いとしても、不安定で掴みどころのないこの日常の永続が、愛津の支えだ。

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