ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
今の佐古のスピーチで、川名本人はともかく彼の党員への印象は、いくらかプラスに転じたようだ。それは、えれんも例にもれなかった。次いで親族代表の祝辞では、英真の兄の往国英治がマイクを取ると、彼女は見目も思考も妹寄りの男に対して、あの父親を親に持つとは信じ難いとまで言って褒めた。
「英真……おめでとう、おめでとう!ひっ、グス……すぴーっ、ぐす、幸せになってぐれ"……良いんだ、お兄ちゃんは英真が幸せなら本望だ、しづやちゃん、英真をよ"ろ"じぐ頼みますっ、英真は……そうだ、十二月になったら、室温は二十八度、ハンドクリームは◯◯皮膚科じゃないといけなくて、うぅっ、英真は冷やすと体調を崩すから、寝巻きはジェラピケのもこもこのやつ、布団は──…」
「英治おぼっちゃま、お泣きになるならお席にお戻り下さいませ」
佐々木と名乗る英真の家政婦が、席を立って英治を連れ戻していった。
顔面を濡らして鼻をすする有名企業の重役は、あちこちから失笑を買って、披露宴らしく客のもらい泣きを促しもした。
「英治さんは、恋人いないのかな?」
「実家暮らしなら、五分五分ね。あんなにシスコンだと、恋愛は苦労しそう」
「私は気にしない。彼、可愛くて気に入っちゃった。あとで連絡先を渡しに行くわ」
このありあの思いつきが、のちの彼女を大きく左右しようとは、誰に想像出来たことか。
「ありあちゃんの欲望、理解出来る」
客席の女達を吟味しては、さっきから目をぎらつかせていたえみるが、話に割り入ってきた。
「私も見た目が好みの人を見ると、ヤりたくなるもん。織葉さんや伊藤さんは、理性で抑えているけど」
友人枠にスピーチが移り変わった時、つと、ある違和感が愛津を襲った。さっきのケーキのサンクスバイトで、おかしい、と何故思わなかったのか。
百目鬼玲亜という名前を、今日、一度も聞いていない。