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ジェンダー・ギャップ革命

第5章 良人の娘と寝る女


* * * * * *

 クリスマスが近づいていた。

 最近は、英真としづやも幾分、調子を戻しつつある。それがどこまで正真かは分からない。少なくとも彼女達が百目鬼の件を保留にしている間、愛津も心休まっていた。

 あの日、愛津はえれん達の話を立ち聞きするつもりはなかった。宅配業者から着信があって離席した先で、真相を知ってしまったのだ。

 えれんは深く後悔していた。英真が親友と友情の危機に瀕しようところまで、彼女は想像していなかった。

 愛津がえれんに救われたように、彼女には、弱っている人間を放っておけないところがある。百目鬼はからっとした気性らしいが、愛津でももしえれんの立場なら、傷心した彼女のために、望まれもしない手を回したかも知れない。



 忙しなくも浮かれた気分が世間を覆う年末を、愛津も同じように迎えたのは、もう二度目だ。

 本部では、今年も無礼講な会合の話題が出始めている。

 クリスマスに忘年会。

 前者は毎年、恋人のいないメンバー同士が集まるだけだが、愛津は好きだ。普段より少しめかしこんで、周りはカップルや家族連ればかりのレストランで、えれん達とディナーを囲む。どうあれば幸せで何が虚しいかなど、本人達の自由ではないか。


「愛津ぅ、仕事帰りに見えないくらい、楽しそうな顔じゃないか」


 男の声が、まもなく帰り着こうとしていた愛津の足を止めた。

 父親だった。

 愛津の僅かな警戒心を、懐かしさが上塗りした。


 父親とは色々あった。母親とは暮らしても彼とは関わりたくないとまで考えていたが、愛津の今の幸福も、彼がいなければ叶っていなかっただろう。産まれることも出来なかったのだから。

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