ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
「お父さん……うん、久し振り。突然、だね」
夏の一件以来、実家とは距離を置いている。最近は母親から連絡もなく、彼女達の悶着も、愛津の中では風化していた。
ただし愛津の気分が良くても、相手もそうとは限らない。
ある側面では、目前の男も母に似ているところがある。
「お母さん、前に愛津に会いに行っただろ?戻ってくるよう話してきたって聞いて、お父さん、楽しみにしてるんだぞ。なのに連絡は寄越してこないし、お母さんの勘違いか?お前、そんなに忙しいのか?」
「ああ、そのこと……。ちょっと手が空かなくて。家には帰れないって、伝えておいてくれるかな?」
父親は、拍子抜けするほど物分りが早かった。愛津の返事は問題ではない、娘がどうしているか気になって、飛んでこずにはいられなかったとおどける彼に、久しく親の顔を見た。
互いに夕飯はまだだった。
愛津は彼を部屋に上げた。
スープを鍋にかけながら、父娘のとりとめない世間話を交わす。
本来、愛津の父親は親しみやすかった。金さえあれば、どこにでもいる父娘であり続けられただろう。こうした時間も楽しめたはずだ。両親が今どうしているかは知らないが、予定していたよりスープの具材を足したくらいには、愛津は彼を歓迎していた。
夕餉を平らげて、父親に食後のお茶を振る舞った。その間に洗い物を済ませた愛津は、水道を止めて異変に気付いた。
後方に父親の気配がない。振り向くと、手洗い場にも彼の入った様子はなかった。