ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
「スマホ知らない?」
「俺が知るか」
「もう帰って」
「親に向かって、どういう口の利き方だ」
「お金目当てに親が会いにくる私の気持ちはどうなるの?」
「何だと」
「ずっと苦しくて、お洒落も勉強も遊びに行くのも諦めて、やっと安心して生活出来るようになった。何で私がこれからも切りつめてまで、お父さん達を助けないといけないの?!学校だって中退したのに!」
「仕方ないだろ、いつまでも学校のことを言うな!一人暮らしを許してやってるだけでも有り難く思え!家族なのに助け合えもしないのか、愛津は!」
目の前を水が覆ったように、視界が歪んだ。今にもこぼれそうな涙が、目に張りついて揺れている。
悲しい。寂しい。
昔はこの父親も、愛津を愛していたはずだ。彼が入院した時も、看護師達に、譫言で娘を呼んでいたと聞いた。娘のために早く復職するのだと言って、リバビリも張りきっていた彼の姿は、病院内でも感心されていたと聞く。
どこでどう変わったのか。働くことも諦めないことも辞めた父親は、愛津に向けていた愛情も、どこかに置き去りにしてきたのだろう。
「親孝行してくれれば良いんだよ、何も全額渡せとは言ってない──…」
ピーンポーン。…………
父親の猫撫で声に被さって、呼び鈴が鳴った。
駆けていって扉を開くと、夢かと疑う人物が、愛津を綺麗な目に映した。
今しがたのショックのあまり、愛津は知らずに寝込みでもしたのか。
愛津の目から、今度こそ感情がこぼれ落ちた。涙を誤魔化すのも失念した。
「織葉さん……?」