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ジェンダー・ギャップ革命

第5章 良人の娘と寝る女








 深夜の訪問を詫びながら、織葉は目に見えて狼狽えた。

 無理もない。

 事務所に置き忘れてあったスマートフォンを届けた先で、持ち主が目を赤くしていたのだ。おまけに部屋には年嵩の男。


 愛津の支離滅裂な説明でも、どうにか織葉に伝わった。
 結局、彼女が父親を追い出した。ことの仔細は伏せたにせよ、それだけ愛津が酷い顔をしていたのだろう。スマートフォンの礼を言って、謝罪も加えた。


「気にしないで。愛津ちゃん的には困っただろうけど、忘れ物してくれていて良かった。変なことされてない?」

「それは平気です。親ですし」

「殴られたりは?」


 再三、愛津は首を横に振る。

 両親の喧嘩にも、暴力が加わったことはない。仮に愛津の知らない本性があの父親にあったとしても、十一年前、彼が病を患ったのは事実で、あれでも僅かな後遺症がある。腕力に訴えるのは無謀だ。


「本当に、有り難うございました。スマホも、お父さんには悪いこと言っちゃいましたし……織葉さんにもご心配かけて……」


 ああ、まただ、と思った。

 愛津の目尻が熱を帯びる。父親の愛情を懐かしんで込み上げた時のとは別物の、これは胸の奥が苦しいほど満たされたゆえの生理現象だ。

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