ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
「ごめんなさい、ほっとしたら涙が……織葉さん、タクシー呼びます?電車じゃ申し訳ないですし、送っていきま──…」
「愛津ちゃんが構わなければっ……」
何かを思い定めた調子の声が、愛津の提案を遮った。
二人、座りもしないで玄関口で向き合っていた。
従って愛津と織葉の距離は極めて近く、彼女が愛津の片手を取り上げるのも造作なかった。
織葉が、ともすれば恋人を慈しみでもする仕草で、愛津の手を両手に包んだ。
「お父さん追い出しておいて何だけど、泊めて」
「えっ」
「タクシーでも電車でも、愛津ちゃん、私を一人で帰らせるのは遠慮するでしょ。でもそうしたら、今度は私が愛津ちゃんを帰すの気が引けるから」
「確か、に……」
「今度、お礼する。寝る場所だけ貸して!」
考えるより先に、愛津は二度返事で頷いた。
最悪の不運に見舞われたあとは、絶好の幸運が待ち受けていることがあるという。今夜の父親の訪問は、今の前触れだったのではないか。
織葉からすれば世話の焼ける後輩を放っておけないだけにしても、愛津には、一生忘れられない思い出になるのが目に見えるようだ。ただ数時間、彼女と同じ空間で過ごすだけだとしても。