ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
えれんに死を検討させたのは、大越との結婚だった。思いとどまらせたのは亡き親友だ。
「彼女は絶望してこの世を去った。私達に相談もしないで、愚痴の一つ聞かせないで。でも彼女は何も残せなかった。親族達は、彼女の亡くなった動機から目を逸らしている」
「仕事が忙しそうだった、女の身で働かせすぎだったんじゃないか……と、会社を訴える気、満々ね。自分達が追いつめたくせに」
「もう少し待ってくれていたって良かったんじゃないの?せめて話してくれていたら……。生きるのも死ぬのも覚悟がいる、悲しんでは彼女の気持ちを踏むにじっていることになる?でも私は許さない。女は結婚して当然だと誤認している社会も、女の人生はお金で買えると思い上がっている男も、口だけで何も出来ない自分自身も、憎くてたまらない」
助けて、泰子。息が出来ない。苦しくて、悔しくて、滅ぼしたいのに何かが私を搦め捕って離れないの。
聞き分けのない子供のように、えれんは親友の墓の前で泣いた。
泰子はやるせないような顔を伏せて、震えるえれんの肩を抱いていた。
二人とも、まだ無力で無名だった。
特にえれんは家事と育児に専念していて、主婦という肩書きの他に何もなかった。重光の秘書になったのも、それから十五年あとのことだ。