ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
「大越、もう一度薬を打つわよ?!」
「えれんちゃん、助けて……えれんちゃんんんっ……!!」
一年と半年振りに見た大越は、えれんの記憶にいた彼とは別人だ。頬はこけて肌はくすんで、窪んだ目は明後日の方向を向いている。彼がえれんを認識したのも信じ難いが、えれんの方も、よくこの鼠のような男を元配偶者と識別出来たものだ。同名の他人と聞いても納得出来るほどなのに。
大越を足で制しながら、研究員がえれんに視線を投げかけてきた。
えれんは、彼女に仕事を続けるよう合図する。
身重の身体を蹴り転がされていく男を見下ろしていると、えれんは笑い出しそうになる。他の男でも愉快だったはずなのに、大越であれば尚更だ。
久城もえれんも、収容所が機能し出して真っ先に、かつて自分の配偶者を名乗った男を投獄した。迷いはなかった。久城を支えてきたのは彼女の知識やキャリアだったし、えれんも織葉だけが家族であり愛する対象だ。