ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
織葉の肌は、まるで積もりたての雪だ。彼女の透き通るような手が洗剤にまみれるのを見ていると、ひやひやする。
愛津の罪悪感とはよそに、慣れた手つきで、彼女はシンクを空にした。
「有り難うございます、早くてビックリ」
「よくやってるから」
「家政婦さん、いらっしゃるのでは」
「先に寝てもらってることが多くて」
仲睦まやかな母娘の住居は、残業もなく、働き手に優しい環境らしい。
顔も知らない家政婦達が、愛津は急に羨ましくなった。彼女達は毎日、愛津達の知らない織葉を当たり前に見ている。彼女と同じ屋根の下に暮らして、私的な生活空間の一部として存在しているのだ。
「私、今夜、一人じゃなくて良かったです。有り難うございます」
「やっぱりまだ平気じゃない?何でも聞くよ」
「あ、その、お父さんのことというより……」
織葉が愛津を同情するのは、さっきのことがあったからだ。
彼女は知らない。愛津の最大の弱点が、彼女本人だということを。彼女が誰にでも優しいのを知っていながら、過度な期待を抱いてしまうことを。