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「お父さんのことは、平気です。織葉さんが追い出してくれて、心強かったです。嬉しかったです」

「つい……ね、私も養父に良い思い出なくて」

「それって、神倉さんの、……」


　愛のない結婚だったらしい。

　男の方はえれんに恋愛感情があったと聞くが、彼女をよく知るえみるや久城を通して聞いた話を思い起こしても、ろくな配偶者ではなかったのが分かる。


「お義母様を持ち物みたいにしていた男。家政婦さんのいなかった頃から、家事分担しようなんて頭にもなくて……って、愛津ちゃんのとこと同じだね」


　その大越湊斗は、織葉ともほとんど口を利かない父親だった。血縁もなかった父娘だ、当然と言えば当然だと補足した彼女は、しかし一度だけ、収容所で彼とまともに話したことがあるという。


「初めて父親ヅラしてきたよ。大事な娘だのすまなかっただの散々言って、お義母様と私を案じるような物言いだった。でも、お義父さんが気にかけていたのは、あの人自身だった。研究所に移動が決まったあの人は、人工出産を拒否するにはどうすれば良いか訊いてきた。私に無罪を証言するよう頼んできた」