ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
えれんは、本当に百目鬼に良かれと思って、斎藤を収容所に送ったのか。
彼女は彼と織葉の関係を知っている。
四年前、彼女は居酒屋店主との交際を仄めかした織葉を、彼女の理念の代弁者に任命した。
その立ち位置に就けば、彼に寄せていた友情を超える好意は断たなければいけなくなる。彼が男であるのもそうだし、「清愛の輪」がLGBTQを特に支援してもいない以上、支持者を集める立場上、恋愛そのものが禁忌になる。
その制約がえれんを一個人としても安心させたということを、初恋の男と別れた傷心が癒えきっていなかった当時でさえ、織葉は勘づくことが出来た。
貴女は私のために生きるの、他の誰のものになってもいけない。
そう言って、彼女は織葉が十代の頃から肉体関係を望むようになっていた。抗不安薬でも投与するのと同じように、彼女は義理の娘の愛に縋った。
かくいう織葉も、本当にえれんの政治的理念だけに従っているのか。
愛津さえ織葉に頷けば、物心ついた頃から持て余してきたこの執着も、やわらぐかも知れないのに。
「好き……愛津ちゃん、……貴女が」
明るんだ空が、枕元のスマートフォンをより明確に、織葉の視界に入れてきた。
不羈の夜明けを一気に現実の朝に切り替える、大音量のアラームが鳴った。弾かれるようにして、愛津が手元も見ないでスマートフォンをタップした。