ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
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二十八年間生きてきた中で、どの記憶とも比にならない幸福な夜を過ごした。
目が覚めて世界が終わっていても構わない、それより昨夜のことが夢だった方が耐え難い。そう思い至るまで満たされた愛津は、天国にでもいる心地で眠りに落ちて、清々しい気分で目覚めた。
意識が明確になってからも寝具にくるまっていたのは、まだ朝を迎えたくなかったからだ。
くすぐったいような視線が愛津を撫でていた。織葉との距離が僅かであることを思えば、くすぐったくなるのもおかしくなかった。
アラーム音が起こしてくるまで、愛津は眠ったままの格好で、数時間前を振り返っていた。
好き……愛津ちゃん、……貴女が。
瞼の裏が明るんできた時、そのささめきが耳に触れた。
起きているつもりで二度寝したのだと思った。
織葉の声は、現実に聞く彼女のそれより優しく切ない音を含んで、愛津を呼んだ。妙に現実味があった。
それから、起きて身支度や朝食の準備を進めている間の彼女も、おりふしそうした声音で愛津に話しかけてきた。起き抜け特有の声の掠れは、マンションを出る頃になると薄れていたが、通勤電車を降りるまで、愛津の手は彼女に組み繋がれた。彼女は恋人でも扱う風に、少し混雑していれば、愛津を歩道の内側に寄せた。こうも大切にされたのは、初めてだ。
世界が滅ばなくて良かった。