ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
昔のえれんであれば喉を詰まらせたろう銘柄の酒を飲み干して、冷めた天麩羅を口に放り込む。
アルコールで開放的になっていても、えれんの意識は鮮明だ。
織葉を愛している。
三十四年前、えれんは彼女を腹に宿した時、それが最後の頼みの綱だと直感した。
とうとう望んでいたような愛を得られなかった。愛してもいない男の所有物になり下がったえれんは、自身から産まれる子供を理想のパートナーに仕立て上げようと思い至った。
えれんの欲しい言葉をくれて、ひたむきな愛を向けてくれる──…現実のどこを探しても、そんな女は存在しない。
特にえれんは、男好きのする容姿で定評があった。学生時分も胸ときめくような思い出に乏しかったえれんは、ついに金銭的な制約まで付随した二十代、理想の女と理想の関係を築くのは、夢のまた夢だった。
しかしそこまで都合の良い存在を、もし、自我の芽生える前から育て上げられるとしたら?
えれんの思いつきに、泰子は協力を決めてくれた。
産まれてくる子供にえれんが母親であることを隠す、そして大越を除く周囲にも。
血縁関係を秘匿することで、建前だけでも道徳的に、えれんは自ら作り上げた恋人との甘い人生を、将来、手に入れられると目論んだのだ。