ジェンダー・ギャップ革命
第5章 良人の娘と寝る女
深夜の座敷で泥酔したえれん達は、そうこうして真智の自宅へ移って、川の字になって眠ったらしい。
窓の外が明るむ頃、い草の香りが、えれんを夢から大広間へ導いた。他に起きていたのは、ついさっき二十代の頃の姿で夢の中に出てきた泰子だ。
顔を洗ってショールを羽織ると、えれんは泰子と純和風の建物のバルコニーに出た。
真下に広がる庭園は、常々想像していた通り、明るい時間に見ると絶景だ。昨日の公園には見劣りするが、桜も見頃だ。
「えれん、今、幸せ?」
「唐突な質問ね。泰子こそ」
「私は見ての通り。ねぇ、えれんは?」
「…………」
酒に飲まれた時、醜態でも晒したか。
泰子の視線をやたら痛く感じながら、えれんは彼女に頷いた。
幸せとは、どんな状態を指すのだろう。
いつしかえれんは、自分自身より、星の数ほどの女達をそこに押し上げることに熱中するようになっていた。
織葉が側にいてくれれば、何もいらない。えれん自身の幸福は、それ以外に思い描けない。幸せにならなければ、と自分を甘やかそうとするほど、目指す先が輪郭を失くす。
「何も失わなければ良い。何も失っていない私は、幸せだと思うわ」
昼間から飲んでいたせいで、頭が痛む。真智達の起き出してきた気配を感じて、庭園の眺めを惜しみながら、えれんも泰子と部屋へ戻った。きっと誰一人遅刻しないのだろう本部に、えれんも遅れるわけにはいかない。
第7章 良人の娘と寝る女──完──