ジェンダー・ギャップ革命
第6章 異性愛者差別
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試着に甚だ時間をかけたえれんは、カーテンを開けて売り場に出るなり、二者択一を投げ出した。
世間が春夏物の一掃セールに沸き立つこの時期、見るからに出番はまだ先のワンピースを二着手渡された店員は、耳を疑う時と同じ顔をえれんに向けている。
すぐ近くのワゴンでは、二十代半ばを過ぎたくらいの女達が、一つのバッグを色んな角度から眺めながら、レジへ向かいかけたりやめたりしていた。
「秋まで迷って、手に入らなくなっていて後悔したくありませんから」
「良いと思うよ。私も、お義母様はどっちも似合ってたと思う」
目新しいブーケの配色を賛美する具合に織葉の口を突いて出た言葉に気を良くしたえれんに促されて、店員が仕事を再開した。マニュアルに沿ったセールス文句を大袈裟なまでに明るく復唱して、レジでの作業を完遂した店員は、店先でえれんにショップバッグを渡すところまで、最大限に真摯な接客を体現した。
夕餉の店を検討して歩く途中、織葉はえれんに試着室で彼女が応対した電話の内容を聞かされた。
「しづやちゃん達も、よくやるわ。いくら昔のよしみとは言え、百目鬼さんみたいなメンヘラ女……」
呆れるほど律儀だ、とぼやくえれんの手元を見ると、器用な手つきで彼女はLINEを起動させていた。月村や磯辺の加わっているグループにメッセージを打っているところからして、彼女自身も律儀なのが分かる。
織葉はえれんの腕を引いて、人混みから彼女を離した。