ジェンダー・ギャップ革命
第7章 愛慾という桎梏
夜のカフェで話していたもしもの例が、愛津の頭の片隅で、警笛を鳴らす。
えれんが恋人を求めないのも織葉と同じ事情なら、その禁忌がおかされた時、「清愛の輪」にどう差し響くか。新制度がLGBTQに該当しない人間に不都合をもたらしているのは事実だが、えれんにそこまでの意図はなかった。だが織葉が中立的な姿勢を崩せば、今の風潮も彼女らの意図したものと邪推する市民が出てくる可能性もある。
初めてやり甲斐のある仕事にありつけた。現状に不満はなかった。
だから迷った。迷った末、愛津は決めた。初めから止められる想いなら、悩まなかった。
「言われちゃったな、ついに」
「言っちゃった」
「私の本命は、愛津ちゃんだよ。片想いだったら、無難に夢見ていられたのに」
愛津を責める言葉つきが、温かだ。織葉の底なしに優しい声は、愛津の唇を塞いで途切れた。
「愛津ちゃん……」
外でのキスとは、比にならない。角度を変えて、愛津の唇を味わうように愛でる織葉の口づけは、幻のように儚げでいて、執拗で濃厚でエロティックだ。