ジェンダー・ギャップ革命
第2章 唾を吐く貧民
出勤して一時間、長沼そうまのマイクを通した演説が、ビルの間近に大音量で響いていた。たまに休憩の挟まれる時が、唯一の救いだ。
愛津がパソコンのモニターから顔を上げると、斜め前のデスクにいる織葉と目が合った。
「五月蝿い?」
「公害です」
「防音付けたいけど、あれが言ってるほど、私達は無駄遣い出来ないからね」
「ですよねぇ」
あれ、と織葉に呼ばれた例の議員は、ここに彼の敵視する与党「清愛の輪」本部があることを意識してか、これみよがしに話し続けている。ここまで耳障りなものを聞かされて、もし本当に彼の指摘する通り、えれん達が血税を浪費している団体であれば、真っ先に防音装置を付けたい。
それでも愛津は、今の資料を早く処理して、午後には次の業務に移りたい。個人名まで出されているえれんに比べれば、自分は耐えられる範囲だと心の中で言い聞かせて、キーボードを打つ。
「織葉さん、原稿読むの教えに行ってあげたらどうですか」
「私も上手いと言えるほどじゃないよ」
「いや、上手いです。初めここの責任者、織葉さんだと思ってましたもん」
「あったねー、懐かしい」
「本当ね。先週、えみるちゃんともそんな話したかしら。ほら、あの子も織葉に釣られて来たじゃない?」