ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
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一定期間、愛津は自宅謹慎になると聞いた。事務所は特別有給扱いになるらしい。それも短期間だろうと予想はつくが、それだけでもえみるは、幾分か心穏やかに彼女の支度を手伝っていた。
ところが、えみるは、たちどころに刑場に立たされることになった。
罪人が生死の瀬戸際に追いやられるそこに、先に引きずり出されていたのは、ありあだ。
「苫坂えみる。貴女は双葉愛津の処罰を行わず、自身の卵子を彼女のものと偽証して、研究施設へ送り届けた。心当たりは?」
同期の読み上げた書類から、えみるはありあに目を移した。
久し振りに陽の当たる場所に出た友人は、完治までには遠い傷が全身に散布しているのを除いて、改めてその美しさに安堵する。竹を割ったような人となりの滲み出た細い目許が大きく見開いているところからして、今しがたの起訴は、彼女が出どころではないようだ。
「訊き方を変える。皇ありあ」
「はい」
同期の看守が、今度はありあを見下ろした。
後ろ手に拘束された彼女は、両脇をかつての同僚達が固めていて、どうやら罪を問われることになったらしいえみるより罪人らしい有り様だ。
ただし職員達からすれば、えみるもありあも同等だろう。偽装を計画したのはえみるでも、ありあなしでは卵子の採取は困難だった。
「貴女は苫坂えみるに頼まれて、彼女から卵子を採取した。その際、彼女の目的は聞いていたか?」
「…………」
「ありあちゃんは、知らないはずです!私は採って欲しいとだけ──…」
「今は皇ありあに訊いている!」
看守の一人の一喝が、えみるの発言を制した。
…──ありあちゃんが、知らなかったと答えますように。
えみるは祈った。
しかし生きた人間の心の声が天に届く例は、稀だ。
ありのまま答えるありあの声が、やけに大きく耳に響いた。