ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
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エントランスで愛津を迎えたえれんの第一声は、訴訟の謝罪、それから愛津への労り、無事な姿を見られたことへの喜びだった。
「個人的な感情は決して持ち込まないと決めているのに、動揺して、酷いことをしてしまったわ。自分で自分が恥ずかしい。手続きを急いだ分、愛津ちゃんには落ち着くまで家にいてもらうことになるけれど、不便があれば何でも言って」
「はい、あの……ごめんなさい」
「謝るのは、私の方。それに、愛津ちゃんには貴重な経験をさせてもらったわ。独身だった頃でさえ私、特定の誰かを取り合って、同性と気まずくなったこともなかったから……」
「織葉さんのこと、神倉さんは……。……いいえ、やっぱりいいです」
愛津には、えれんの本心が全く見えない。彼女の諧謔が言葉つき通り本当にただの冗談か、彼女は事実を寄越すまい。
月村は、えれん達に母娘として一線は超えられないと言っていた。だが、愛津はえれんの悋気によって投獄されて、自宅謹慎もいつ解けるか分からない。
愛津は、えれんと門の外へ足を向けた。
彼女との話が他愛もない雑談に移りかけた時、愛津は近くの騒がしさにはっとした。
えれん曰く、ここでは茶飯事だという。刑場が使われる度、野次馬が押し寄せるらしい。
「じゃあ、えみるちゃんはそっちの仕事に行ったのかな……。見送りに来てくれると思っていたので、お礼、言い損ねてしまいました」
「…………。愛津ちゃん」
にわかにえれんが足を止めた。
愛津は、彼女の蒼白な顔にぎょっとする。えれんの目の先を追うと、広場のような場所が見えた。よく見知った職員達と、尋常でない数の市民らが、柵の向こうに集まっていた。