ジェンダー・ギャップ革命
第8章 報復の権利
「ァ"ぎゃァア"ア"ア"ッッ!!!」
時折、ありあから断末魔の悲鳴が上がる。
えみるの補助を許可された同僚が、アーチを跨いだ鎖を引いて、彼女の乳房を咥えた蜘蛛を、引力とは真逆に向かわせているからだ。不恰好な肉塊にしか見えなくなった膨らみが、天に向いて、ぼたぼた血液をしたらせている。
くちゅくちゅ。ジュル、ちゅるる。…………
ありあの脚と脚の間の割れ目に、えみるは唾液を塗りたくる。
鉄錆の味に仄かな酸味を連れたとろみが混じってきた頃、ペニスを模したスティックは、バーナーの熱で変色していた。
ほとんど乳房を失くしたありあは、まだ目を剥いて、喉を鳴らしている。しかし鉄の張り型は、今度こそ彼女の生命を奪うかも知れない。えみるが処刑を担当してきた女達は、上手い具合に肉体の一部だけ破損するか、精神を壊すかだけしたのに。
「月村さん。苫坂さん、私情を持ち込んでばかりいて、やる気がないみたいです」
「誰でも初めてのことは慣れないでしょう、ここまで出来れば十分」
月村達の声が聞こえた。
その通りだ。
過去の処刑に、スペインの蜘蛛と火炙りの張り型が併用された例はない。
どちらか片方であれば、治療も見込めただろう。何故、えみるに巻き込まれただけのありあに、こうも重い罰が下るのか。
「ありあちゃん!!!」
突然、男の声がした。
えみるが声の主を探したのは、今しがたありあを呼んだ声に、稀有な良識を感じたからだ。
声は、またありあを呼んだ。彼女を呼ぶ度に嗄れていくのは、男が泣いているせいか。
はっとして、ある一点で、えみるは群衆を見回すのをやめた。